陽気スマイル

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愛的桃園空港(愛の桃園空港)by T.S

★これは、私たちの結婚に際し、友人が作ってくれた出会いの物語です★

 

愛的桃園空港 〜イサムとフサヨの物語〜

 

二〇一一年

八月 台北 天理教台湾伝道庁

 

 ある夏の昼下がり、台湾伝道庁の事務所。イサムはいつも通り御用に勤しんでいた。台湾伝道の一助になろうと覚悟を決め、海外部本館の玄関で『また逢う日まで』を熱唱した日から二年目の夏のことである。

 「井手君!」

 イサムが父と慕う三濱庁長の声がした。

 「なんでしょうか?」

(忙しいのに...)とつい口から出そうになる言葉を、(イカイカン...)と、いつものように飲み込みつつ三濱庁長の下へ行く。

 「君に紹介したい人がいる。10歳ほど年下で、君よりもずっと背が高いが、背の高いのは気にするかい?」

 突然のことではあったが、そこは天理青年のイサムのこと、

「そんなこと気にしません。お願いします!」

と力強く、しかし条件反射的にお答えしたのだった...

 

七月 おぢば 修養科

 

 こどもおぢばがえりの準備が慌ただしさを増し、夏本番を目前にしたおぢば。フサヨは、ある想いを胸に修養科に入学する。

 「親神様が導いて下さる。」

 天理教校学園高校で10年間体育教師を務めたフサヨは、将来への漠然とした不安を抱えつつも、(必ず何かを見せて下さる。それに素直に従おう)と決心し修養科に入学した。組掛に任命されると(よし!やるぞ!)と俄然はりきり、やんちゃなグループを見かけると、長年培った教師魂と持ち前のガッツで、自ら近づき教え諭すこともあった。

 フサヨは、修養科に入学する前から、修養科を修了した後に親友の三濱留美さんと3泊4日で台湾旅行に行く約束をしていた。

 「台湾で紹介したい人がいる。」

 三濱庁長からそう告げられたのは、修養科を終える九月二十五日。台湾に行く約束をしたずっと後のことだった。

 (親神様が導いて下さる!!!)

 修養科の生活で強い想いに、より磨きのかかったフサヨは

 (きっとこれだ!)

 まるで「不安」という言葉自体を忘れてしまったかのように、フサヨは神の導きと疑わなかった。

 

十月三日 台北 圓山大飯店 

 

 台湾屈指のホテル圓山大飯店の二階のレストラン「金龍」。伝統的な建築スタイルと点心が有名なこのレストランで、イサムとフサヨは初めて顔を合わせた。

イサムは、

 (明るく素直そうな人だなあ)

と思った。

 フサヨは、

(目のシワが笑った形になってるなあ)

と思った。

 この時、二人の間に、台北の十月とおぢばの十月ほどの温度差があったかどうかは定かではない。

 楽しい昼食が終わり、圓山大飯店の一階コーヒーラウンジ。落ち着いた雰囲気のフロアに、ぎこちないオーラが煙のように立ち上るテーブルに二人きり。

こと女性に関しては、辞書で「不器用」を引くと「イサム」と出てくるのではないかと思われるほどダメなイサムだったが、この時ばかりは、二人の「あいだ」と会話の「間」を埋めようと懸命に話をつなぐ。

 あっという間に一時間が過ぎた。

 イサムは、

 (この人ともっと一緒にいたい)

と思った。

 フサヨは、

 (なんだか、とても気に入ってもらってるみたい...)

と思った。

 よく考えてみると、台北に秋はないが、おぢばは秋風に銀杏が舞う季節であった。

 ここでイサムの真骨頂が遺憾なく発揮される。

 「僕はあなたのことが好きになりました!」

 それは、ウルトラマンが1分も経たずにスペシウム光線を放つが如く、アントニオ猪木が試合開始早々に延髄切りを出すが如く、筋書きも盛り上がりも効果さえも度外視して繰り出されたフィニッシュブローであった。

 (もし避けられたら...)というリスクを顧みないのか、考えられないのか...この限りなく純粋に近い不器用さこそイサムの大きな魅力の一つである。

 あまりにも突然で単純な言葉に、フサヨは

 (まだ会って三時間なんだけど...)

と思った。フサヨは冷静だった。否、少し引いていた。

 そんなフサヨの心を知ってか知らずか、イサムはこの日の夜には、(もうこの人しかいない!)という気持ちになっていた。

 

十月五日 台北 桃園国際空港

 

 朝、帰国をするフサヨと留美さんが空港へ向かう車の運転席にはイサムがいた。

 フサヨと留美さんは流れる景色を見ながら、楽しかった旅行の名残を惜しんでいた。

 そんな光景とは裏腹に、車内はイサムの心の声で溢れていた。

 (おととい初めて会ったばかりなのに...)

 (いや、今日しかない...)

 (でもいくら何でも早すぎるか...)

 (日本に帰ってからでは遅い...)

 答えの出ない堂々巡りが何十周かした時、車は静かに空港へ着いた。

 搭乗手続きを済ませるとフライトまで僅かに時間があった。

 空港のコーヒーショップで二人は向き合っている。

 (時間がない、時間が...)

 堂々巡りから抜け出せずにいたイサムは、人生で最大の勇気を振り絞り、こわばっているのか微笑んでいるのか区別のつかない表情で、しかししっかりと顔をあげながら、力強い声で話し始めた。

 イサムという人間について、八月に「紹介したい人がいる」と言われてから初めて会うまでのこと、初めて会った時のこと、初めて会ってから今日までのこと、そして今の気持ち。最後に

 「結婚して下さい!!!」

 熱い熱い、生まれて初めての真剣な告白だった。

 しかし、勇気を出して言ってはみたものの、全く自信はなかった。たった二回、それも数時間程度会話しただけの関係。名前と容姿以外は、ほとんど何も知らない。それで(結婚して下さいなんて)、という思いと、それでも(この人しかいない)と思いたい気持ち、否、(この人だ!)という確信の狭間で、相変わらずの堂々巡りを繰り返していた。顔が熱くなっていた。コーヒーカップを持つ手の震えが止まらない。

 一瞬の沈黙、、、イサムには、永遠の長さに感じられた。

 そんなイサムを見つめながら、フサヨはゆっくりと話し始めた。不器用だが真剣なイサムの言葉に(しっかりと答えなければ)と思うフサヨは、自分の気持ちを確認するように、心の中に詰まったいろいろな想いを、一つ一つ丁寧に取り出していった。

 そんなフサヨの言葉を聞きながら、イサムは何故か、

 (あっ、これはダメなパターンかな?)

と思った。さっきの勢いが嘘のように弱気なイサムに、フサヨは心の中に残った最後の言葉を手渡した。

 「どうぞよろしくお願いします。」

 イサムは一瞬、我が耳を疑う。

 (なんて言った?よろしくお願いします?どういう意味?)

 しばらくして、ようやく言葉の意味を理解したイサムの体は、まるで仮装大賞の得点ボードのように、足下からオレンジのランプが点灯していく。

 (ピッ、ピピッ、、ピピピッ)

 当然、ランプは瞬く間に満点に到達した。

 (ヨッシャー!!!!)

 イサムは、渾身の力で飛び上がった後、金メダリストばりのガッツポーズをとった。心の中で...

 そんなイサムに、フサヨは大切にしていた時計を外し、ゆっくりと手渡した。

 時計を受け取ったイサムは、額と目尻のシワが倍になり、眉毛と目は急角度に垂れ下がり、鼻の下がいつもより余計に伸びて、まるで「ニタ〜〜〜」という字幕が見えるほどに緩んだ顔で、ファンファーレの響く春のお花畑に瞬間異動を果たしたのだった。

(こんなに喜んでくれているのだから、この人でいいんだ。)

フサヨは、緩みきったイサムの顔を見てそう思った。この時のイサムの顔を見て、そう思えるのは、世界でただ一人、フサヨだけであろう。やはり運命の人だったのである。

 男前のフサヨは、決断したら揺るがない。揺るぎたくないのかも知れない。だから強い思いで、約束の証として大切な時計をイサムに預けた。そんなフサヨの視線の先には、満面の笑みでお花畑の中をスキップしているイサムがいた。

 フライトの時間、フサヨを搭乗口へエスコートするイサムの足は、あいかわらず地についてはいなかった。イサムは、空港を忙しく行き来する人の中を、一人夢心地でフワフワと浮かんでいた。

 終わりのない二人の物語は、こうして幕を開けたのだった。

 

 

二〇一二年二月二十八日

 

 イサムとフサヨを心から愛する多くの人が集まって、心を一つに二人の新たな門出を祝う。

 「一手一つ」

 これから二人は、親神様の教えを胸に、教祖に導かれ、多くの人の支えの中で、互いに手を取り合って歩んで行くだろう。

 「一手一つ」

 そんな二人の未来を想いつつ、今日集まった大勢の仲間もまた、改めてこの言葉を胸に刻み、喜びと勇気をもらうことだろう。

 ただ、今日ばかりは、人より少し余分に遠回りをした二つの人生が、海を越えて一つに重なり合う奇跡を見せてくれたイサムとフサヨに、心からの敬意と愛情を込めて

 「井手一つ」

と言わせて欲しい。

 (ダジャレやないかい!)と親神様も笑い飛ばして下さるだろう。

 そして、世界に一つでも多くの笑顔作ろうと、手を携えて海を渡る二人の活躍を、きっと楽しみにしていて下さるだろう。

 この後の二人の物語を、みんなで見守ろうではないか。いつまでも。

 

永遠につづく...

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どうぞよろしくお願いします。